書籍・線維筋痛症は改善する
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【線維筋痛症の治療薬】 現在「株式会社・そーせい」により線維筋痛症候群の経口治療薬開発品AD337が開発中であり、二〇〇八年後期第U相臨床試験へ移行し順調に進んでいるとされています。337の後続開発品としてSD726は、非臨床試験を終了し臨床試験へ移行できる状況でSD726は古典的医薬品化学の方法で337と異なる薬理学的特性を有する化合物として探索され、非臨床試験において線維筋痛症候群ならびに神経因性疼痛への適応の可能性が示唆されています。また、二〇〇八年欧州において特許が成立しています。 非ステロイド性消炎鎮痛剤 (NSAIDs) が処方されることが多いようです。ただし、これまで安定した効果を持つ特効鎮痛剤は見つかっておらず、NSAIDsにて治癒軽快した例はきわめて少ないようです。抗不安薬(フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンズアミド系、ベンゾジアゼピン系)や三環系抗うつ薬アミトリプチリンなどが古くから有効とされています。デパス・コンスタンなど補助的に使う場合が多いようです。SSRI・SNRI(フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプラン、ヴェンラファキシンなど)による治療の報告も増えているとして知られています。 神経や精神状態の改善が症状を改善させるという臨床例が多く認められています。ノイロトロピンという特殊な作用機序を持つ下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療剤が長期間慢性的につづく疼痛に対しては有効とされています。ノイロトロピンを定期的に静脈注射するなどの療法も行われていますが、線維筋痛症の痛みは個々人によって症状が異なるため、線維筋痛症に詳しく、これらの薬剤に熟知した専門医による処方が望まれます。 二〇〇七年米食品医薬品局(FDA)は米国ファイザー社リリカ(一般名:プレガバリン, Pregabalin)を初の線維筋痛症治療薬として承認しました。プレガバリンは過剰興奮したニューロンを沈静化させる作用があるとされています。日本では糖尿病性末梢神経障害や帯状疱疹後神経痛、抗てんかん薬の三項目で承認される一方、線維筋痛症の病名では処方できない、個人輸入に頼らざるを得ない上、ジェネリック未発売のため薬価が高すぎるなどの問題があります。副作用は眠気、しびれ、目まい、浮腫、および無力症などが報告されています。 二〇〇八年ジェネリック発売のプレガバリンと作用が似ているガバペンチンもしばしば用いられています。救急の場合医師の厳重な監督の下、モルヒネやソセゴンの投与を行う事も稀に有はあるようです。 二〇〇七年十二月三十一日、Forest Laboratories社とCypress Bioscience社は、線維筋痛症治療薬として開発しているデュアル(ノルアドレナリン/セロトニン)再取り込み阻害剤・ミルナシプラン(milnacipran)をアメリカFDAに承認申請したと発表しました。 二〇〇八年三月一〇日、神経・線維性疾患の治療薬を開発しているPipex Pharmaceuticals社は、リウマチ様の痛み疾患・線維筋痛症を対象にした経口flupirtineのプラセボ対照二重盲検第二相試験のIND申請がアメリカFDAに受理されたと発表しました。 薬物による治療だけではなく、認知療法、カイロプラクティックや鍼灸、腹式呼吸などの呼吸法や瞑想、ウォーキクング・ヨガやストレッチ・エアロビクス・水泳などの軽い運動、健康的な睡眠の確保といった、ストレスを緩和させる手法も有効ではないかと考えられています。ただし本人が望まないのに無理やり運動させたりすると悪化したり、中〜重症患者には本人の希望する軽いストレッチなど以外は、激しい運動は逆効果ではないかとの声もあります。 肉体的精神的ストレス、環境の急激な変化、人間関係のストレス、激しい労度など、病状を悪化させる可能性のあるものは極力避けた方がよいのです。続発性線維筋痛症は先行する原疾患のコントロール及び、他種の自己免疫性疾患の治療と同様の治療方法が望まれます。ただし、自己免疫性疾患が治癒又は寛解しても痛みが継続する場合もあり、必ずしも原疾患が原因とは限らないのです。(例えば事故の外傷が完治したり、膠原病の数値が安定しても、痛みが継続する場合がしばしばあります。ただし、きっかけとなった病気を治すことで痛みが弱まる可能性は高いと言われています)リウマチ科、心療内科あるいは神経の問題からも神経内科と精神科と連携して治療することが必要であると思います。 二〇一〇年、これまでの慢性疼痛治療は、ニューロンの活動のみを抑制させる事に集中してきたが(プレガバリンなど)、グリア細胞が炎症性サイトカインや因子をおこして神経細胞を刺激し興奮させ続ける限り、ニューロンの活動を抑えられない事が判明しています。神経性疼痛障害は、グリア細胞へのブレーキが不可欠であり、また、モルヒネやヘロインなどの医療用麻薬製剤の耐性獲得にグリア細胞が関与しており、グリアを抑制することで併用する鎮痛剤の効果を飛躍的にアップさせる事ができと言われています。 現在慢性疼痛の分野では、グリアそのものを沈静化する方法、グリア細胞が出す炎症の引き金となる分子やシグナルをブロックする方法、炎症を抑える信号を送る方法などが模索されています。下記はグリア細胞にアプローチした生物学的製剤→AV411=アストロサイトの活動を阻害・エタネルセプト=商品名エンブレル抗炎症信号の伝達によりグリアを沈静化・アナキンラ・ペントキシフィリン・インターロイキン(サイトカイン)=抗炎症信号の伝達によりグリアを沈静化・JWH-015=痛みを和らげるCB2カンナビノイド受容体を活性化・メチオニンスルホキシミン=アストロサイト(神経損傷後にできる大きなグリア細胞)の神経伝達物質分泌阻害・ミノサイクリン=ミクログリアの活性化阻害・プロペントフィリン=アストロサイトの活動阻害・サティベックス=カンナビノイド受容体を活性化・SLC022=アストロサイトの活動阻害などがあります。 ※生物学的製剤とは、最新のバイオテクノロジー技術を駆使して開発された新しい薬で、生物が産生した蛋白質を利用して作られます。特に関節リウマチの炎症や痛み・腫れ、骨や軟骨などの関節破壊を引き起こす原因となる物質を抑えることにより、その効果を発揮するとされ、日本でも既に膠原病の分野で認可されているものもあります。しかし、日本では、FMSなどの中枢性感作症候群(痛みが増幅する症候群)に上記の生物学的製剤と医療用麻薬製剤その他の鎮痛剤、抗うつ剤などと組み合わせて処方される事はないのです。欧米では既に生物学的製剤と医療用麻薬製剤を組み合わせた治験は済んでおり、その飛躍的な鎮痛効果により様々な成果を挙げているとの報告が多く出ています。 ただ、現在のところ、線維筋痛症には特効薬はなく、普通の痛み止めが効かない場合が多く、脳内の痛みをコントロールする作用がある向精神薬を服用することが主流となっており、患者は精神的な病になっているのではなく、薬の痛みをコントロールする作用を期待して服用しています。
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